「感染マニュアル」には書けなかった知識を補完・深めるための


解説 透析医療における感染症予防・治療マニュアル

  • 【編集】 秋葉 隆
  • 【ISBN】 4-88875-173-0
  • 【本体価格】 4,200円
  • 【刊行年月】 2005年 06月
  • 【版組】 B5判
  • 【ページ数】 180ページ
  • 【在庫】 なし

序 文
近年,透析医療におけるリスクマネジメントの重要な課題として,院内感染対策が挙げられています.私どもは,厚生労働省の,厚生労働科学研究費補助金医薬安全総合研究事業の一環として,日本透析医会,日本透析医学会,日本臨床工学技士会,日本腎不全看護学会の協力を得て,「透析医療における標準的な透析操作と院内感染予防に関するマニュアル」(以下,「感染マニュアル」)を作成し,全国の透析医会会員,透析医学会施設会員に配布しました.

これは,多くの透析施設にて利用され,感染症対策の必要性を啓発するのに大きな役割を果たしております.また,医療監査を始めとする,行政の目標値としても引用され,透析施設の感染対策策定の教本的な役割を果たしてきました.また,これらの対策にも関わらず,透析施設における肝炎ウイルス感染例はたびたび新聞報道をにぎわせ,透析医学会統計調査の成績からも依然として肝炎ウイルスの院内感染が持続しているものと伺えます.そこで,各透析施設では感染対策を継続し,常にその見直しをはかる必要があります.予防のみに限定せず,肝炎ウイルス感染患者の治療や肝癌防止のための対策などを始めとし,各種感染症に対する治療法についても知識を深めていくことも重要な点となります.

以上のような観点より,透析施設における肝炎ウイルスを始めとする各種感染症予防に対する具体的な知識と対応策について,公的な性格をもつ「感染マニュアル」には書けなかった知識を補完し,さらに深めるために本書を企画いたしました.また,リスクマネジメントは患者を守るだけでなく,スタッフをも感染から守るという意味合いがあります.同時に感染対策にかかるコストベネフィットについても考慮しました.

本書は,各透析施設の院長,透析室担当医師,主任クラスの看護師および臨床工学技士,感染コントロールナースなど,感染管理において管理的かつ責任ある立場の透析スタッフを読者対象として,この領域に経験の豊富なそれぞれの職種の専門家に執筆していただきました.上記の「感染マニュアル」では,「痒いところに手が届かなかった」点を補完し,各施設における感染対策を常に見直し推進するための強い味方になる書籍となったものと自負しています.

平成17年4月
秋葉 隆
目 次
はじめに:透析医療における感染症とは(秋葉 隆)
  • I.透析療法と感染症の関係
  • II.透析患者の感染症と一般人口の感染症の関連
  • III.透析治療における感染と医療コスト
  • IV.医工学における感染と患者予後-ウイルス肝炎との関わり
第1章 感染予防の基本
1.透析患者はなぜ感染に弱いのか (安藤 稔)
  • I.透析患者の感染と治療環境の特殊性
  • II.透析患者を取り囲む環境(外的要因)
  • III.透析患者自身のもつ特殊性(内的要因)
    • 1.ブラッドアクセス,腹膜アクセス
    • 2.透析患者の免疫能
    • 3.栄養障害,MIA症候群
2.基本的感染防止対策 (菊地 勘)
  • I.すべての湿性生体物質(血液、体液、喀痰、尿、便など)は感染性があるとみなして対応
  • II.正常な皮膚にも細菌が存在し、医療従事者の手指は患者の正常皮膚に接触しても汚染する
  • III.医療従事者の手指は病原体によって汚染されており、感染経路となる
  • IV.感染のリスク減少・手指汚染の予防のため手袋着用が必要
  • V.透析室での手指衛生には、抗菌石鹸と流水による手洗いが必須
  • VI.医療従事者の手あれ予防は重要
3.院内感染に関する微生物の知識 (大薗 英一)
  • I.C型肝炎ウイルス(HCV)
  • II.B型肝炎ウイルス(HBV)
  • III.易感染性による細菌感染症
    • 1.メチシリン耐性・グリコペプチド系中等度耐性・バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA・GISA・VRSA)
    • 2.バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
4.推奨される正しい消毒・洗浄 (畑中 美智子)
  • I.消毒・洗浄の定義
  • II.医療従事者の手洗い
    • 1.手洗いの手順とポイント
    • 2.手洗いの留意点
    • 3.環境整備の留意点
  • III.ブラッドアクセスの消毒
    • 1.消毒薬と使い方
    • 2.消毒薬の取り扱い
5.感染防止のための血液透析操作
  • 1)血液透析の準備 (金子 岩和)
  • I.ダイアライザおよび血液回路の透析装置への装着
  • II.トランスデューサの接続
  • III.ダイアライザおよび血液回路(補液ライン付き)のプライミング
  • IV.操作施行者
  • V.注射薬等の準備
  • 2)血液透析の開始から終了まで (金子 岩和)
  • I.患者の観察と記録
  • II.血液透析の開始,終了操作
    • 1.開始・終了操作の前に
    • 2.穿 刺
    • 3.穿刺後の操作
    • 4.抜針後
  • III.治療施行時および抜針後における操作
    • 1.穿刺ミスや再穿刺をする場合
    • 2.止血操作
    • 3.透析を一時中断する場合
    • 4.創処置をする場合
    • 5.ベッド上で排泄された喀痰,便,尿の処置
  • 3)終了後の物品の処理・廃棄など (川崎 忠行)
  • I.使用済み物品の処理(後かたづけ)
    • 1.血液等飛散防止
    • 2.針刺し事故防止
    • 3.その他の物品
    • 4.後片づけの工夫
  • II.廃棄物の処理
    • 1.ダイアライザと回路の廃棄
    • 2.針等の廃棄
    • 3.感染性廃棄物の処理
  • III.医療器具の消毒
  • 4)透析装置・室の洗浄と消毒 (大浜 和也)
  • I.多人数用透析装置・ベッドサイドコンソール,個人用透析装置の洗浄・消毒
  • II.透析室内の清潔保持
6.感染防止のための院内体制 (山﨑 親雄)
  • I.感染防止に関する院内体制の基本
  • II.診療報酬にみる院内感染対策について
  • III.具体的な院内感染対策
    • 1.ワクチン
    • 2.サーベイランス報告
    • 3.情報提供
    • 4.感染対策教育
7.感染防止上の透析室設計と設備 (芝本 隆)
  • I.透析医療の特殊性
  • II.透析施設の設計・設備の特殊性
  • III.透析専門施設の設計・設備
    • 1.透析専門施設のスタッフ作業動線
    • 2.ベッド間隔を決定する因子
    • 3.感染対策設計・設備
  • IV.隔離透析室の設計・設備は厚生労働省告示と米国建築学会病院設備ガイドラインを取り入れる
  • V.スタッフ教育の徹底
8.透析スタッフの感染予防対策 (佐藤 久光)
  • I.透析スタッフ教育
  • II.具体的感染防御対策
  • III.針刺し事故を起こした場合
  • IV.まとめ
9.感染予防のための患者教育 (萩原 千鶴子)
  • I.基本的な感染予防教育
    • 1.個人衛生と自己管理についての指導
    • 2.透析室や施設内における指導
  • II.各感染症患者への教育の基本
  • III.B型・C型肝炎ウイルス陽性患者への教育
  • IV.HIV陽性患者への教育
  • V.MRSA感染者,保菌者に対する教育
  • VI.結核感染者への教育
  • VII.インフルエンザ
  • VIII.その他の感染症
第2章 感染予防各論
1.ウイルス肝炎の院内感染防止のための個別予防策・治療
  • 1)院内感染予防のための個別予防策 (頼岡 徳在)
  • I.標準予防策(standard precaution)の施行
  • II.透析室におけるベッドの固定
  • III.サーベイランス
  • IV.集団感染(outbreak)の防止
  • V.carry-overの防止
  • 2)肝炎ウイルス感染発生時のウイルス学的・疫学的調査 (吉澤 浩司)
  • I.調査委員会の設置
  • II.当該施設内における肝炎ウイルス感染の実態把握
  • III.肝炎ウイルスの遺伝子型(ジェノタイプ)の決定と塩基配列の解析
  • IV.肝炎ウイルスの新規感染者と肝炎ウイルスキャリアとの時間的・空間的接触に重点をおいたカルテ調査
  • V.当該施設への立入調査と必要に応じた改善指導
  • VI.改善指導(介入)後の効果の検証
  • VII.調査報告書の作成と事後指導
  • 3)肝炎ウイルス感染者の治療 (佐藤 千史)
  • I.最近の治療法の進歩
  • II.薬の種類と一般的投与法
    • 1.インターフェロン(IFN)
    • 2.リバビリン(レベトールR)
    • 3.ラミブジン(ゼフィックスR)
    • 4.グリチルリチン製剤(強力ネオミノファーゲンCR)
    • 5.ウルソデオキシコール酸(ウルソR・ウルソサンR)
    • 6.還元型グルタチオン製剤(タチオンR、アギフトールSR)
    • 7.プロへパールR
  • III.薬剤の選択
    • 1.B型慢性肝炎
    • 2.C型慢性肝炎
2.肝炎ウイルスを除く感染症の個別予防策と治療
  • 1)HIVの個別予防策 (日ノ下 文彦)
  • I.はじめに
  • II.感染ルートと感染チェック
  • III.感染防御法
  • IV.消毒とゴミの廃棄
  • V.針刺し事故
  • 2)MRSAの個別予防策 (原田 孝司)
  • I.MRSA易感染者
  • II.MRSA感染経路
  • III.感染予防対策
  • IV.MRSA感染者対策
    • 1.鑑 別
    • 2.隔離基準
    • 3.隔離解除
  • 3)インフルエンザの個別予防策と治療 (前田 貞亮)
  • はじめに-インフルエンザの概要
  • I.インフルエンザの診断
  • II.インフルエンザの治療
  • III.インフルエンザの予防
    • 1.インフルエンザワクチン
    • 2.血液透析(HD)患者におけるワクチン接種と抗体価
    • 3.抗インフルエンザ薬の予防的内服
    • 4.一般感染防禦法
    • 5.施設(院内)感染防禦対策
  • IV.高病原性鳥インフルエンザについて
  • 4)肺炎球菌感染症の個別予防策と治療 (春口 洋昭)
  • I.肺炎球菌感染症の特徴
  • II.肺炎球菌感染症の症状と診断
    • 1.肺炎
    • 2.慢性気道感染症
    • 3.髄膜炎
  • III.肺炎球菌感染症の予防策
    • 1.ワクチン接種
    • 2.透析室における予防策
    • 3.患者の日常予防策
  • IV.肺炎球菌感染症の治療
  • 5)とびひ・水虫・その他皮膚接触感染症の個別予防策と治療 (政金 生人)
  • I.患者のかゆみの把握と皮膚細菌感染(とびひなど)
  • II.足白癬・爪白癬
  • III.疥癬
  • IV.ヘルペス感染症
3.CAPD関連感染症 (川口 良人)
  • I.腹膜炎の診断と必要な検査
  • II.腹膜炎の治療
  • III.出口部感染・トンネル感染の診断
  • IV.出口部感染・トンネル感染の治療と予防
4.カテーテル関連感染症 (大平 整爾)
  • I.ブラッドアクセスとしてのカテーテル法の選択
  • II.カテーテル挿入時の留意点
  • III.カテーテル挿入・留置後の合併症
  • IV.カテーテル関連感染症の診断と治療
  • V.計画的ブラッドアクセスの作製
第3章 院内感染と透析医療
1.感染事故時の緊急対応,事故後の長期的対応 (大平 整爾)
  • I.感染サーベイ
  • II.患者への告知と届け出
  • III.感染事故後の緊急対応
    • 1.HBV,HCV
    • 2.インフルエンザ
    • 3.結 核
  • IV.明らかな院内感染への対応
    • 1.患者への対応(「賠償」の可能性を含め)
    • 2.業務上の感染症に対する「労災認定」
  • V.感染事故後の長期的対応
    • 1.HBV,HCV
    • 2.結 核
2.医療事故としての院内感染 (秋澤 忠男)
  • I.透析施設における院内感染
  • II.医療過誤として生じる院内感染
  • III.院内感染の実態
    • 1.東京都内劇症肝炎発症事例
    • 2.兵庫県B型肝炎発症事例
    • 3.熊本県B型肝炎発症事例
    • 4.HCV集団感染事例
  • IV.院内感染の予防
  • V.今後の展望
3.感染防止に関するコスト・医療経済 (杉崎 弘章)
  • I.感染防止対策にかかる諸経費
  • II.院内感染防止対策未実施減算について
  • III.感染性廃棄物処理に関する負担
  • IV.賠償責任保険の負担について