ESD,EMR,EST必携


消化器内視鏡治療における高周波発生装置の使い方と注意点

序 文
内視鏡的治療がポリペクトミーあるいはせいぜい内視鏡的粘膜切除術位であった時代には,病変も小さくスネアで緊縛した病変基部あるいは狭い範囲の粘膜を切除するだけで,比較的安定した条件の元で行われ,高周波電流の発生装置も簡単で,その扱いも難しいものでは無かった.
しかし近年の内視鏡的治療の発展は目覚ましく,特に近年急速に普及しつつあるESDでは,切除対象病変が従来のEMRに比べて大きいだけでなく,症例毎に個々の条件が大きく異なり,使用するデバイスも多種多様で,術者の考え方の違いによって各種のものが使われる様になってきた. 当然これらのデバイスではそれぞれ電気的な特性もかなり異なっている.
これに伴い高周波発生装置にしても,処置の違い,デバイスの種類,手技のプロセスに応じて,基本性能である切開,凝固に加えて出力特性に特徴のあるもの,新しい方法の導入,より出力の大きいもの,より安全性を考慮したものなど各種の装置が使い分けられる様になってきた. 当然その効果を最大限に発揮するためには,従来にも増して個々の機器の電気的特性の知識の習得,扱い方の習熟,的確な使用法の習練,危険の予防措置が重要なものとなってきている. すなわち病変のサイズによっても微妙な出力の調整が必要であり,さらには実際の処置にあたって出力開始後の組織の色調変化,スネアの進み具合,煙りの出現状況などから出力の微調整が必要で,合併症予防の為の具体的な方法の理解,さらにはどの様な場合にも対処出来るだけの智識,技能の習得が一層必要なものとなってきている.
本書では,各種内視鏡的治療を的確に行うにあたり現在市販されている各種高周波発生装置について,まず機器の設計思想,特性,扱い上の注意点を技術者から詳細に述べて戴いた.
ついで手技毎の注意点の章では,ポリペクトミー,EMR,ESD,特にESDではNeedleナイフ,ITナイフ,Hookナイフ,Flexナイフなどデバイス毎に,治療処置に応じての高周波発生装置の選択,その使い方の留意点,病変の大きさ,性状に応じた使い方の注意点,さらには局注剤の種類による手技の細かい違いに至るまで,高周波発生装置に関連した必要事項を詳細に述べて戴いた.またESDでの止血処置具に関しては各種の凝固鉗子,バイポーラ止血鉗子,アルゴンプラズマ凝固法,バイポーラスネア等に関しても十分説明して戴いた.
巻末には付録としてトラブル防止の為のチェックリストが設けられているが,このリストは内視鏡的治療の実施に当たり常に参照して欲しい項目であり,親切な配慮がされたものと思っている.
本書の執筆者はいずれも新進気鋭の方々ばかりで,いずれも自身の貴い経験に基づいて執筆されたものである.
新しく各種の内視鏡的治療を始められる方々ばかりでなく,現在この領域に携わっておられる超ベテランの方々にとっても,必ずや参考になる所大なるものがあると思っている.
是非とも座右に備えて戴き,より安全確実な内視鏡的治療の実施を目指して戴きたいと念じ,監修の言葉とさせて戴く次第である.

平成17年4月

聖マリアンナ医科大学客員教授
日本消化器内視鏡学会理事長
丹 羽 寛 文
目 次
1.知っておきたい基礎知識
(1)高周波発生装置の基本原理 (市川 義人)
    • I.高周波の基礎原理(波形による違い)
      • 1.波形による違い
      • 2.切開,止血の原理
      • 3.凝固波形による効果とリスク
    • II.電撃(感電)
      • 1.高周波発生装置による電撃はありうるか
      • 2.他の要因での感電
    • III.内視鏡下での高周波発生装置を使った処置の注意事項
(2)高周波発生装置使用時の注意事項 (林 照夫)
    • I.高周波電流による熱傷事故
      • 1.分流による熱傷
      • 2.対極板貼付部での熱傷
      • 3.アクティブ電極部位での熱損傷
    • II.性能を発揮するための留意点
      • 1.対極板の貼付部位
      • 2.刺激
2.高周波発生装置の使用機種別特徴と基本設定
(1)PSD-10およびPSD-20(Olympus) (川口 淳)
    • I.機種ごとの特徴
      • 1.PSD-10
      • 2.PSD-20
    • II.基本設定
      • 1.胃polypectomy
      • 2.大腸polypectomy
      • 3.EMR
      • 4.ESD
(2)PSD-30(Olympus) (郷田 憲一,貝瀬 満,田尻 久雄)
    • I.PSD-30:開発の経緯
    • II.PSD-30の機能:特徴と基本設定
      • 1.出力
        • 1)表示・設定
        • 2)切開出力
        • 3)凝固出力
      • 2.電気特性
        • 1)基本周波数
        • 2)出力インピーダンス特性
      • 3.安全機能
        • 1)セルフチェックモニタ
        • 2)Sコードモニタシステム
        • 3)連続出力時間監視機能
        • 4)分割対極板 離検出機能
        • 5)帰還電流モニタ
        • 6)電気安全性
      • 4.操作性
        • 1)スタンバイ機能
        • 2)メモリー機能
(3)PSD-60(Olympus) (土井 俊彦)
    • I.PSD-60について
    • II.Endo Cutモード
      • 1.初期切開波の追加
      • 2.切開パルス数可変機能の変化
      • 3.凝固出力時間変更機能の追加
      • 4.時間変更機能の追加
    • III.Auto Cutモード
      • PPS(パワーピークシステム)
    • IV.アルゴンプラズマ凝固
    • V.強制凝固
    • VI.Soft凝固
      • 補足:Sコードシステム
(4)ICC200および350(ERBE) (豊永 高史,杉山 健)
    • I.ICC200および350の設計思想
    • II.切開
      • 1.Auto Cut
      • 2.Endo Cut
    • III.凝固
      • 1.Soft凝固
      • 2.Forced凝固
      • 3.Spray凝固
    • IV.内視鏡治療における各種モードの使い方
      • 1.Endo Cutの使い方
        • 1)ラピッドステップ・テクニック
        • 2)切開速度のコントロール
        • 3)プレコアグレーション
      • 2.凝固モードの使い方
        • 1)ESDにおける使い方のコツ
        • a.Forced凝固トリミング
        • b.止血
        • 2)出血性胃潰瘍
        • a.Soft凝固と止血鉗子を用いた「4+1接触法」
(5)VIO300D(ERBE) (後藤田 卓志,小田一郎,濱中 久尚)
    • I.高周波電源装置の基本
      • 1.高周波電流による切開と凝固
      • 2.電流密度
      • 3.出力波形
    • II.ICC200の機能と基本設定
      • 1.Auto Cut
      • 2.effect
      • 3.Power Peak System(PPS:切開出力支援機能)
      • 4.Endo Cut
      • 5.Forced凝固
      • 6.Spray凝固
      • 7.Soft凝固
    • III.VIO300Dの新しい機能と基本設定
      • 1.Dry CutとSwift Coag
      • 2.新しいEndo Cut
3.手技毎の注意点
(1)PolypectomyおよびEMR (貝瀬 満,田尻 久雄)
    • I.“理想的な”高周波切除 vs “臨床上求められる”高周波切除
    • II.PolypectomyおよびEMR時の高周波切除結果に影響を及ぼす因子
    • III.スネアと高周波切除の関係
      • 1.ワイヤ径,ワイヤの撚り方と高周波切除の関係
      • 2.スネアの絞扼スピード,緊縛力と高周波切除の関係
      • 3.モノポーラスネアとバイポーラスネア
    • IV.病変の大きさや正常と高周波切除の関係
    • V.粘膜下局注の有無および局注射の種類と高周波切除の関係
    • VI.臓器や部位と高周波切除の関係
      • 1.穿孔・出血の生じやすさ
      • 2.穿孔に対する治療の難易度
    • VII.高周波装置の使い分けと焼け具合の調節方法
      • 1.PSD-10,PSD-20,PSD-30
      • 2.PSD-60とICC200,VIO
(2)Endoscopic Submucosal Dissection(ESD)
  • 1). needleナイフ (山本 博徳)
    • I.切開能,凝固深度を規定する要因
    • II.Needleナイフの特徴
    • III.具体的な条件設定
    • IV.治療手技の注意点
      • 1.マーキング
      • 2.粘膜切開
      • 3.粘膜下層剥離
      • 4.止血
    • V.困ったときの対処法
      • 1.出血しやすいとき
      • 2.切れない場合
  • 2). ITナイフ (小田 一郎,後藤田 卓志,濱中 久尚)
    • I.高周波発生装置による切開・凝固の原則
      • 1.電流密度
      • 2.出力波形
    • II.ITナイフを用いたESDにおける手技の実際と高周波発生装置の出力設定
      • 1.マーキング
      • 2.プレカット
      • 3.全周切開
        • 1)ITナイフを使った切開のコツ
        • 2)具体的出力設定
      • 4.粘膜下層剥離
        • 1)ITナイフを使った剥離のコツ
        • 2)剥離の手順
        • 3)具体的出力設定
      • 5.止血処置
    • III.困ったときの対処法
      • 1.切れない場合
      • 2.出血が多い場合
  • 3). Hookナイフ (竹内 学,小山 恒男,宮田 佳典)
    • I.Hookナイフ
    • II.HookナイフによるESDの実際
      • 1.準備すべき器具
      • 2.マーキング
      • 3.局注
      • 4.粘膜切開
        • 1)垂直方向からのアプローチ
        • 2)接線方向からのアプローチ
      • 5.粘膜下層剥離
        • 1)Hook Cut
        • 2)Arm Cut
      • 6.血管処理
        • 1)止血処置
        • 2)出血予防
        • a.Spray凝固
        • b.pre-coagulation
        • 3)後出血予防
    • III.困ったときの対処法
      • 1.うまく粘膜切開ができない場合
      • 2.うまく剥離できない場合
  • 4). Flexナイフ (矢作 直久)
    • I.Flexナイフの特徴
    • II.手技の実際と条件設定
    • III.局注剤の選択
      • 1.局注剤の選択
      • 2.胃病変における条件設定
        • 1)マーキング
        • 2)粘膜切開
        • 3)粘膜下剥離
        • 4)止血処置
      • 3.食道・大腸病変における条件設定
        • 1)マーキング
        • 2)粘膜切開
        • 3)粘膜下剥離
        • 4)止血処置
    • IV.困ったときの対処法
      • 1.切開すると患者さんの体がピクンと動く
      • 2.通電してもなかなか切れない
(3)Endoscopic Sphincterotomy(EST) (五十嵐 良典)
    • I.ガイドワイヤー型パピロトームによるEST
    • II.高周波発生装置
      • 1.ICC200
      • 2.PSD-60
      • 3.VIO300D
    • III.ガイドワイヤー式パピロトームでうまく切開ができない場合
    • IV.ガイドワイヤー式パピロトームが胆管へ挿入できない場合
      • 1.Precut
      • 2.膨大部切開術
4.高周波止血処置具の使い方
(1)高周波凝固子 (藤崎 順子)
    • I.高周波凝固子の種類
    • II.凝固子による止血操作
    • III.現状と展望
(2)止血鉗子(モノポーラ) (榎本 祥太郎,矢作 直久,一瀬 雅夫)
    • I.高周波止血鉗子の特徴と使い方
      • 1.各処置具・機器の特徴
      • 2.高周波の設定
      • 3.止血操作の手順
    • II.高周波止血鉗子の有用性と注意点
(3)止血鉗子(バイポーラ) (今川 敦,白鳥 康史,矢作 直久)
    • I.バイポーラ止血鉗子の特徴
    • II.バイポーラ止血鉗子の構造
    • III.設定条件
    • IV.手技,使い方
    • V.注意点
5.その他の処置具の使い方
(1)アルゴンプラズマ凝固(APC)法 (藤城 光弘,矢作 直久,小俣 政男)
    • I.APC法に必要な機器
    • II.APC法の原理と特徴
    • III.高周波発生装置,APC装置の設定
      • 1.ガス流量の設定
      • 2.APC300,ENDOPLASMAの設定
      • 3.APC2の設定
        • 1)forced APCモード
        • 2)precise APCモード
        • 3)pulsed APCモード
    • IV.APC法の適応病変
(2)バイポーラスネア (和田 友則)
    • I.バイポーラスネアの特性
    • II.バイポーラスネア使用のコツ
    • III.現状と展望
(3)バイポーラーニードルナイフ(B-Knife) (土井 俊彦)
    • I.バイポーラーデバイスの問題点
    • II.バイポーラースネアにおける工夫
    • III.バイポーラーニードルナイフ
    • IV.バイポーラーニードルナイフの問題点
まとめ (永尾 重昭)
    • I.内視鏡治療の適応としての選択
    • II.偶発症からみて
    • III.現状と願望
付録:トラブル防止のためのチェックリスト (久永 康宏,曽根 康博,熊田 卓)