本書は消化管内視鏡医を念頭に置いた病理組織所見の解説書である.


消化管病理組織診断のポイント

  • 【【編著】】 井藤 久雄
  • 【ISBN】 4-88875-136-6
  • 【本体価格】 8,800円
  • 【刊行年月】 2001年 10月
  • 【版組】 A5判
  • 【ページ数】 150ページ
  • 【在庫】 なし

正確な診断は臨床医と病理医の共同作業によりもたらされる.本書は消化管内視鏡医を念頭に置いた病理組織所見の解説書である.『臨牀消化器内科』連載を書籍化した.
序文より
日常の病理組織診断業務では,検体の半数以上が消化管から採取された標本が対象であり,多くの病理医は毎日のように消化管標本の病理診断を行っている.消化管の生検標本は内視鏡医が肉眼で確認して採取するわけであり,組織所見の前に肉眼所見がある.正確な診断は臨床医と病理医の共同作業によりもたらされる.両者の緊密な関係,十分な情報交換は誤診や過剰治療の抑止となる.病理医の少ない我が国では内視鏡医の「眼」が,病理診断に対するセカンド・オピニオンになっている.消化管疾患の診断は臨床の眼によって下され,病理診断はその確認と言っても過言ではない.
日本側病理医と欧米側病理医で,粘膜内腫瘍の診断基準が異なることが話題となっている.「ポリシーの相違」と言って,看過はできない.診断基準が異なったとしても,わが国では大きな混乱は生じていない.これは問題となる症例の大部分が進展の遅い粘膜内癌であったことに加えて,消化器臨床医と病理医の長年にわたる良好な関係が,消化管病理の診断基準を確固たるものとしてきたからである.
他方,病理組織診断の基準が病理医によって多少なりとも,ずれていることは否定し得ない.一貫した診断と治療を展開するには,病理医のくせを見抜くことも,臨床医の仕事かもしれない.「良き病理医は,良き臨床医によって育てられる」
本書は雑誌『臨床消化器内科』に連載された「消化管の病理」を基にしており,消化管内視鏡医を念頭に置いて構成された病理組織所見の解説書である.内視鏡医に知っていただきたい病理学的用語を解説し,病理サイドで日頃,考えている問題点などにも言及した.病理組織診断のみならず,診断に至るプロセスや所見を理解していただきたいからである.専門家は自分の領域を熟知していると思いがちであるが,角度を変えると気づかなかったことが見えてくることもある.病理医の戯言と思って,目を通していただければ幸いである.病理専門医を目指す若い医師にとっても,多少のお手伝いができるかもしれない.
当初はすべての章を一人で担当する覚悟で望んだが,日常業務を抱えていると,連載は意外と辛い.私の仲間である呉共済病院の谷山清己先生,同 佐々木なおみ先生,そして藤田衛生保健大学の堤 寛教授に協力を仰いだ.教科書的な観点からは,本書の記載に多少の濃淡があることは否めないが,基本は網羅したつもりである.
本書の企画から完成までには多くの関係者からご協力をいただいた.とくに,日本メデイカルセンターの有田敏伸,増永和也の両氏には,当方の希望を快く受け入れていただいた.記して厚く感謝する次第である.
驚異的支持率を維持する小泉内閣がもたらすであろう大学改革の嵐の中で.
主要内容
I.消化器内視鏡医に必要な病理・分子病理の知識と検体の取り扱い
  • 臨床側の問題/病理側の問題/明日の病理診断
II.食道疾患
1.正常食道粘膜および非腫瘍性病変
  • 正常食道粘膜/形成異常/食 道 炎/Barrett食道
2.腫瘍性病変
  • 良性腫瘍/異形成上皮(dysplasia)/扁平上皮癌/その他の食道悪性腫瘍
III.胃 疾 患
1.正常胃粘膜および良性病変(GroupIおよびGroupII)
  • 正常胃粘膜/良性病変(GroupIおよびGroupII)
2.境界領域病変(GroupIII病変
  • 腺腫(adenoma)/境界領域病変(boderline lesion)/GroupIII病変の取り扱い
3.胃癌(GroupIVおよびGroupV)
  • GroupIV病変/GroupV病変/粘膜内癌の病理診断基準
4.特殊な胃癌
  • リンパ球浸潤を伴う癌(GCLS)/内分泌細胞腫瘍(endocrine cell tumor)/腺扁平上皮癌および扁平上皮癌/絨毛癌(choriocarcinoma)/AFP産生胃癌(α-fetoprotein producing carcinoma)/未分化癌
IV.腸 疾 患
1.正常十二指腸粘膜および十二指腸病変
  • 正常十二指腸粘膜/非腫瘍性病変/良性腫瘍/悪性腫瘍
2.正常大腸粘膜および炎症性腸疾患
  • 正常大腸粘膜/炎症性腸疾患の生検診断/原因不明の炎症性腸疾患/その他の炎症性腸疾患(感染性腸炎を除く)
3.腸管感染症(1)
  • 腸管の感染防御機構/伝染性腸炎/食中毒/腸管の日和見感染症
4.腸管感染症(2)
  • 局所的な異常に基づく菌交代現象/大腸菌性黄色肉芽腫症とマラコプラキア/急性虫垂炎と放射菌症/腸結核とクローン病類似疾患/腸スピロヘータ感染症/腸寄生虫症/感染症と紛らわしい構造物
5.大腸良性腫瘍
  • 肉眼分類/組織分類/大腸ポリポーシス/大腸ポリープ病理組織診断の留意点
6.大腸悪性腫瘍
  • 組織発生/進展と肉眼分類/病理組織所見
V.消化管悪性リンパ腫
  • 悪性リンパ腫検体の取り扱い/消化管悪性リンパ腫の病理学的特徴/消化管悪性リンパ腫の組織所見
【ポケット】
(1)IT時代における医療や臨床研究の倫理問題(1);とくに病理検体の問題
(2)IT時代における医療や臨床研究の倫理問題(2);倫理審査委員会の役割
(3)ピロリ菌
(4)正常とは
(5)アミロイドーシス(amiloidosis)
(6)消化管粘膜下腫瘍
【用語解説】
肉芽組織(granulation tissue)と肉芽腫(granuloma)
異形成dysplasiaと異型性atypia
ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)
増殖帯と増殖活性細胞のマーカー
核小体(nucleolus)
胃癌の関連用語
アポトーシス(apoptosis;細胞自滅)
嚢胞と偽嚢胞
細胞異型と構造異型
異分化(disdifferentiation)
過誤腫(hamartoma)と奇形腫(teratoma)
硝子物質(hyaline)
感染症予防新法
グラム(Gram)染色
バイオフィルム(biofilm)
幼虫移行症
人畜共通感染症(zoonosis)
CD(cluster of differentiation)
【Topics】
生検診断の正診率
『胃癌取扱い規約』(第13版)の問題点
日本人に虫垂カルチノイドが少ない訳
ウィーン分類
新しい大腸生検診断