基礎から、診断・治療・合併症・後療法までを集大成し、病態と臨床の最新の知見をわかりやすく解説
肝癌 診断と治療
- 【編集】
沖田 極/市田 隆文
- 【ISBN】
4-88875-095-5
- 【本体価格】
19,000円
- 【刊行年月】
1997年 04月
- 【版組】
B5判 上製
- 【ページ数】
347ページ
- 【在庫】
なし
肝細胞癌の治療戦略を考えるために、基礎的研究から早期診断の実際、各種治療法の理論的背景と適応基準、予防治療まで、臨床医が知っておくべき最新の知識の詳細を、日常診療に役立てるようにわかりやすくまとめた。図70点、写真290点。
推薦の言葉
肝細胞癌は他の悪性腫瘍と違った多くの特徴を持っている。一般に、他の悪性腫瘍にあっては診断や治療がほぼ画一化し、医師間で多少の技術の差はあるものの、それほど患者の予後を著しく左右することがないように思われる。それに比べて、肝細胞癌ほど担当医によって予後が左右される悪性腫瘍は他にない。すなわち肝細胞癌患者の予後は、担当医の腕次第ということになる。それほど肝細胞癌は多彩な側面を持っているということであろう。
その第一は、肝細胞癌になるヒトは決まっていることである。すなわちB型ないしC型肝炎ウイルスの持続感染にもとづく慢性肝疾患から発生する。すなわちリスクグループがはっきりしているわけで、したがってこれらリスクグループを定期的に観察することにより、早期の癌の発見が容易である。また、このリスクグループにこれから積極的な予防対策が望まれている。
第二に本邦でみる殆どすべての肝細胞癌は肝硬変を合併している。したがって治療法の選択に当たっては、肝予備能を考慮しなくてはならないことで、したがって肝臓専門家でないと治療ができないことになる。
第三に、多中心性発癌の性格を持つことで、たとえ径が2㎝の細小肝癌症例であっても、よく見るとその半数近くに肝臓の他の部分に別個に発生したより小さな病変をみるし、また小肝細胞癌をエタノール注入療法や外科切除で完治せしめても、その後5年間の経過観察で殆どの症例で新たな発癌をみる。したがって初回治療後の経過観察が大切である。
第四に、進行癌では、血管浸潤が高頻度に起こり、門脈、肝静脈内に腫瘍塞栓をみる。ことに門脈本幹に生じたものでは、著しい門脈圧亢進状態となる。
以上のような多彩な特徴を考えながら、早期のものから高度進行癌に至るまで、異なった治療法の選択、一方では各種治療法を統合した集学的治療で対処しなければならない。
さて肝細胞癌は本邦では3万の年間死亡をみる頻度の多い悪性腫瘍である。したがって、先進国の中で、本邦ほど肝細胞癌を多く観察し、診断、治療はもとより、基礎研究においても進んでいる国はない。東南アジアはもとより、欧米でも今後肝細胞癌の増加が推測されている。私共は本邦で得られた肝細胞癌の基礎、臨床の知識を広く海外に発信し、この方面のリーダーとなって、世界の肝疾患診療のレベルの向上に努めることがわれわれに課せられた道であることを知らなければならない。
本書を推薦するにあたり、若い肝臓疾患に携わる方々が上記のような自覚を持って診療や研究に当たっていただきたいと考えている。
社団法人日本肝臓学会理事長
久留米大学医学部第二内科教授
序 文
再校正用のゲラを総てを見終わり,ここに『肝癌-診断と治療』という大著の概略がほぼ出来あがった.後は本屋の店頭に並ぶ姿を想像するだけであるが,何だか身体が震える.武者震いである.
そもそも本書の出版を考えたのは編著者の一人である市田隆文君であり,私は彼のこのすばらしい企画に誘われるままにのっただけではあるが,彼より少し先輩というだけの理由でこの序文を書くことになった.
それにつけても肝癌の患者は多い.消化器病を専門とする私の科でも全ベッドの8割は肝癌の患者で占められており,肝癌の診療は今や消化器病診療のなかで最重要診療項目と言って過言ではない.しかしながら,このような事態になるとかつて誰が予想できただろうか.私が肝癌の研究にのめり込んでいった昭和44年頃といえば,肝癌の患者に遭遇するのは年に2,3例ときわめて少なく,おかげで肝癌を研究テーマに与えられたら教室のなかでむしろ同情された.しかしどうだろう,今や肝癌の研究者はスポットライトの中にいると言って過言ではない.たくさんの患者と新しいテクノロジーの開発は多くの若い研究者を育んできたが,この上げ潮の状態はいつまでも続いてほしい.しかし,一方ではB型やC型肝炎患者の減少により肝癌も将来的には減少の道を辿るはずであるし,またそうなければならない.だからといって肝癌研究にスポットライトが当たらなくなるとは全然思ってもいない.開発途上国の夥しい患者数や欧米諸国におけるC型肝炎患者数の増加による肝癌患者増加予測など,今後はわが国の研究が世界に貢献する時代がきっと来るはずである.
本書は,見てもおわかりななるように,きわめて活発に肝癌の研究を行っている若手の研究者によって書かれたものである.したがって,独断と偏見に満ちた記述もないわけではないが,これこそが若い研究者に許されたエネルギーの発露ではないかとも思う.これから肝癌を学び,研究していく読者にはそこをしっかりと学んでいただきたいし,この本はそういう諸君のよい道標になってくれるものと確信している.論語の一節に,「思無益不如学(思えども益なし,学にしかず)」とある.学問の神髄をついている言葉である.
擱筆にあたり,20数年来影に日向に支えていただき肝臓病研究の醍醐味をお教えいただいた市田隆文君の父君,市田文弘名誉教授に感謝の気持ちをもって本書を捧げたい.
平成9年3月 教授室にて
山口大学医学部内科学第一講座教授
沖田 極