異常心電図 ミネソタコードと臨床 改訂第5版

心電図自動診断の正しい解釈

序 文
本書は,心電図の波形分類に本邦でゴールドスタンダードとなっているミネソタコードについて,基本となる心電図波形の計測法をはじめ,それら心電図波形が臨床的にどのような意味をもっているのか,チェックされた波形の指導区分にランクづけするにはどうしたらよいかを中心に解説した.
心電図波形はEinthovenの時代から長い間,横軸は太く縦軸は細い線という伝統的な記録法で描かれてきた.このアナログ波形を基盤として完成したのがミネソタコードである.一方,自動解析心電計が描く心電図はサーマルレコーダーによるため,一様の細い線で描かれている.とはいっても,急峻な振れは細めに,緩徐な振れは太めになっている.サーマルレコーダーは元来はアナログである心電図をデジタル変換して取り出したデータを波形分析後,見た目にはアナログ波形らしく描いているのであって,言わば偽物の心電図である.その意味では,自動解析心電図が描いた波形をミネソタコードの計測方式で再検討するわけにいかず,あくまでも自動解析結果を鵜呑みにせざるをえないとも考えられる.
しかし,パターン認識を苦手とする自動解析心電計には弱点がある.たとえばST部の上り坂と下り坂の判別には誤りが多く,ST・Tに重なったP波の認識もできないことが多い.まして心電図には記録されない静脈洞結節の興奮・伝達異常という専門医でも診断困難な不整脈に対しては,解析プログラムすらないのが現状である.このため,自動解析心電計がタイプアウトした結果については医師があらためて再検討する必要があるが,本書がその時の参考に役立てば幸いである.
目 次
1.ミネソタコードとは
2.ミネソタコード分類における心電図波形計測上のルール
I.時間幅の計測
  • 1.P幅(PのはじまりからPのおわりまで)
  • 2.PQ時間〔PR時間〕(PのはじまりからQRSのはじまりまで)
  • 3.QRS時間(QRSのはじまりからQRSのおわりまで)
  • 4.Q幅
  • 5.QT時間(QRSのはじまりからTのおわりまで)
  • 6.R頂点時間(QRSのはじまりからRが最高値に達するまでの時間)
II.電位の計測
  • 1.P電位
  • 2.Q電位
  • 3.R電位
  • 4.S電位
  • 5.QRS全振幅
  • 6.ST-J点
  • 7.T電位
III.ST-Tパターン異常の判定
IV.ミネソタコードのための適用細則
  • 1.一般的事項
  • 2.Q・QS
  • 3.QRS軸偏位
  • 4.高振幅R波
  • 5.ST接合部とST部
  • 6.陰性T波
  • 7.房室伝導障害
  • 8.心室伝導障害
  • 9.不整脈
  • 10.雑項
V.ミネソタコードの日本での改訂
3.ミネソタコード基準の弱点
I.異常Qの臨床的意義
II.心室肥大の電位基準
III.aVFでQRSが上向きでないときは陰性Tをチェックしない
IV.QRS幅が広いときは高いR波項をとりあげない
V.ST下降が虚血型(4-1~3)のときは同時にT波コードを要する
VI.T波異常が同程度ならどこの誘導であっても同一ランクにコードされる
VII.QRSが幅広いときはSTならびにTの所見をとりあげない
VIII.不整脈の分類が煩雑である
IX.低電位の判定
X.ST上昇
XI.弱点についての対策
4.ミネソタ基準を正確にコード化するための演習
I.症例1
II.症例2
III.症例3
IV.症例4
V.症例5
VI.症例6
VII.症例7
VIII.症例8
IX.症例9
X.症例10
XI.症例11
5.集団検診におけるミネソタコードのランクづけとその意義
I.PQ延長(ミネソタコード6-3)
II.期外収縮(ミネソタコード8-1-1~3または8-9)
III.心室内伝導障害(ミネソタコード7-1~8)
IV.T波異常(ミネソタコード5-1~5)
V.ST異常(ミネソタコード4-1~4)
VI.地域集団検診におけるミネソタコードの出現頻度
6.正常波形
I.P波
II.PR部
III.PQ(PR)時間
IV.QRS
V.ST・J点およびST部
VI.T波
VII.電気軸
VIII.QT時間
IX.U波
7.正常心の場合にもみられる異常波形
I.V1の2相性P,陰性P
II.尖鋭なP
III.2峰性P
IV.V1におけるRSR’型
V.Q波のないV5,V6
VI.V1,V2の陰性T
VII.IIIとaTFの陰性T
VIII.非特異的ST-T変化
  • 1.若年型T変化(juvenile T wave pattern)
  • 2.過呼吸症候群
  • 3.運動家のST-T変化
  • 4.神経症性心症候群(neurotic heart symdrome)
  • 5.広範囲のT電位減少
  • 6.局在性T陰性症候群
  • 7.機能的陰性Tと器質的陰性T
IX.早期再分極症候群(early repolarization syndrome)
  • 1.左胸壁誘導の早期再分極症候群
  • 2.右胸壁誘導の早期再分極症候群
  • 3.診断の要点
  • 4.T終末部が陰性の早期再分極症候群
8.異常波形
I.左房負荷
II.右房負荷
III.両房負荷
IV.左室肥大
V.右室肥大
VI.両室肥大
VII.左脚ブロック
  • 1.完全左脚ブロック
  • 2.不完全左脚ブロック
VIII.右脚ブロック
  • 1.完全右脚ブロック
  • 2.不完全右脚ブロック
IX.心室内ブロック
X.左足ヘミブロック
  • 1.左脚前枝ブロック
  • 2.左脚後枝ブロック
XI.異常Q波
XII.電気軸の偏位
XIII.ST異常
XIV.T異常
XV.U異常
XVI.QT時間異常
XVII.Brugada症候群
  • 1.Brugada型波形の成因
  • 2.Brugada型と早期再分極型との違い
9.心電図自動診断
I.目的
II.心電図自動診断の現状
III.心電図自動診断の手順
  • 1.入力
  • 2.A/D変換
  • 3.基線補正
  • 4.雑音消去
  • 5.パターン認識
  • 6.パラメータ計測
  • 7.論理診断
  • 8.不整脈の自動診断
IV.心電図自動診断の欠陥
  • 1.心拍の波形計測しか行っていない
  • 2.ノイズに弱いこと
  • 3.スライスレベル
  • 4.記録された心電図が歪んでいること
  • 5.解析コードが標準化されていない
V.安全対策
VI.安全心電計
VII.電撃防護の分類
10.心電図記録時の注意
I.皮膚の接触抵抗を下げる
II.電極の位置を正しく
III.ペーストは必要最小限の範囲に塗る
IV.適正な記録紙を使う
V.感度を1mV=1.0cmで記録する