透析患者の循環器ベッドサイドマニュアル
心エコーと心電図を中心に
- 【【編集】】
杉本 徳一郎/原 和弘(三井記念病院)
- 【ISBN】
4-88875-165-X
- 【本体価格】
3,060円
- 【刊行年月】
2004年 06月
- 【版組】
B6判
- 【ページ数】
136ページ
- 【在庫】
なし
本書は,透析関係の医療スタッフが,日常勤務のおりに,必要なときにいつでも参考にしたり,確認したりできる循環器マニュアルとなることを意図した.
序 文
透析患者においても,一般社会と同じく,ますます高齢化が進んでいることは毎年の統計調査により示されている。高齢者は暦の年齢とともに,免疫機能の低下,栄養状態の低下,内分泌機能の低下,動脈硬化の進行などから,感染症,消化器疾患,心血管系合併症の頻度が増すことになる。しかし,その進行程度は個人差があり,一方で年を感じさせない元気な高齢者もいれば,年齢以上に動脈硬化が進んでいる患者さんに遭遇することもある。
透析患者さんには動脈硬化性疾患の合併が多いが,これは腎不全の原疾患である糖尿病,慢性糸球体腎炎,腎硬化症などで高血圧の合併が多いことから,保存期腎不全の時期を通して,心血管合併症が進展しやすいことによる。そして透析導入の時期には,すでに心血管合併症に対して内科的または外科的に治療が行われているというケースが増えてきている。
一方長期透析症例を見ると,導入時には腎臓以外はまったく問題のなかった症例でも心血管合併症がじわじわ進行しているということもある。腎不全では,高頻度の高血圧,カルシウム・リンの代謝異常,二次性副甲状腺機能亢進症,ホモシステイン高値など多くの因子が動脈硬化を促進するからである。
言い換えると,透析患者全体では,腎不全保存期,透析導入期,維持透析期のいずれにおいても,常に心臓や血管の合併症を扱う必要があるといえる。
先人の弛まぬ努力による透析技術の進歩と普及・教育の成果により,現在日本国内どこでもほぼ均質の透析医療を享受することができる。そして,透析スタッフの業務は,透析そのものが安定して供給されるように,透析患者さんが日々良いQOLを保って日常生活を過ごすことができるようサポートしていくことにある。
本書は,重要な循環器合併症について,透析スタッフが日常業務の中で常に参考とすることができるようなマニュアルを意図した。必要なときに参照する,あるいは,知識を整理するために読む,いずれにも役立つことを想定している。執筆者は,当院の循環器内科あるいは腎臓内科で,これらの病態の診断と治療に経験のある若手の医師が中心です。本書が,血液透析あるいは腹膜透析の職場を中心にして,患者さんの循環器疾患の早期発見・早期治療,適切な経過観察に役に立つことを心より願ってやみません。
目 次
- Introduction 透析患者の循環器緊急症 / 杉本徳一郎
- I.血液透析中の循環器緊急症
- 1.血圧低下
- 2.血圧上昇
- 3.不整脈
- 4.狭心症
- 5.痙攣
- 6.空気混入,失血に伴う,ショック・呼吸不全
- 7.電解質異常
- II.腹膜透析中の循環器緊急症
- 1.急性心不全
- 2.低カリウム血症に伴う心室期外収縮(PVC),心室頻拍(VT),心室細動(Vf)
- 1.透析患者における心エコー図の基礎知識 / 西 隆博・原 和弘
- I.概 説
- II.心内腔の計測,心不全の心エコー診断
- 1.大動脈径,左房径,左室壁厚,左室内径を計測する
- 2.左室収縮能を評価する
- 3.左室拡張能の評価
- III.各心エコー図の観察ポイント
- 1.胸骨左縁左室長軸像
- 2.胸骨左縁左室短軸像:大動脈弁レベル
- 3.胸骨左縁左室短軸像:僧帽弁部レベル
- 4.胸骨左縁左室短軸像:腱索,乳頭筋レベル
- 5.胸骨左縁左室短軸像:心尖部レベル
- 6.心尖部アプローチ四腔断面像
- 7.心尖部アプローチ二腔断面像
- 2.心肥大 / 中澤 学・原 和弘
- I.心肥大とは何か
- II.心肥大の診断を行う
- 1.心肥大に特徴的な心電図所見
- 2.心肥大の心エコー所見
- 3.心肥大に伴う拡張障害
- III.透析患者と心肥大について
- IV.予後を改善させるための治療とは
- 3.不整脈 / 清水 英樹・杉本徳一郎
- I.透析時期による不整脈の特徴
- II.透析室でよく見かける波形と対処法
- ◆不整脈の全般的な注意点
- ◆おもな不整脈とその対処法
- 1.上室期外収縮(SPVC)
- 2.心室期外収縮(PVC)
- 3.心房細動(af)
- 4.心房粗動(AF)
- 5.心室頻拍(VT)
- 6.心室細動(Vf)
- 7.発作性上室性頻拍(PSVT)
- 8.房室ブロック
- 9.洞不全症候群(SSS)
- 4.虚血性心疾患 / 田辺健吾・原 和弘
- I.急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome:ACS)
- 1.概念
- 2.分類
- 3.診断
- 4.治療
- 1)ST上昇型心筋梗塞(STEMI) 2)非ST上昇型心筋梗塞/不安定狭心症(NSTEMI / UA)
- II.慢性虚血性心疾患
- 1.概念
- 2.診断
- 1)症状 2)心電図 3)心エコ-図 4)マルチスライスCT 5)冠動脈造影(CAG)
- 3.治療
- 1)薬物療法 2)経皮的冠動脈インターベンション(PCI)[透析患者に対するPCI 3)冠動脈バイパス術(CABG)
- 5.弁膜症 / 中島 啓喜・原 和弘・杉本徳一郎
- I.透析患者の弁膜症の特徴
- II.心臓超音波所見
- III.透析患者の弁膜症の治療
- 6.閉塞性動脈硬化症 / 熊谷 天哲・杉本徳一郎
- I.概説
- II.閉塞性動脈硬化症のタイムリーな診断―リスクと症状に注目した早期発見
- 1.症状
- 2.身体所見
- 3.特殊検査
- 1)ankle brachial pressure index(API) 2)血管エコー,ドプラー検査 3)トレッドミル負荷試験 4)サモグラフィー 5)血管造影検査(DSA) 6)MRIアンギオグラフィー
- III.閉塞性動脈硬化症の病期に応じた治療法の選択
- 1.支持療法
- 2.薬物療法
- 3.LDLアフェレーシス治療
- 4.血行再建術
- 5.感染の管理(切断術)
- 6.血液透析中のASOの特徴
- 7.血管新生療法
- 1)血管増殖・成長因子を用いた遺伝子治療 2)血管内皮前駆細胞による治療 3)骨髄細胞移植による治療 4)骨髄細胞移植と遺伝子治療の組み合わせ
- 7.[特殊な病態]ペースメーカー / 羽鳥光晴・原 和弘
- I.概説
- II.ペースメーカーの構造と種類
- III.ペースメーカーの適応
- IV.ペーシング様式と適応
- 1.AAI(R)
- 2.VVI(R)
- 3.VDD
- 4.DDD(R)
- 〈レート応答機能〉
- V.植え込み手技とその合併症
- VI.ペースメーカー心電図
- 1.基本的なペースメーカー波形
- 2.各種ペースメーカー波形
- 1)AAI(R) 2)VVI(R) 3)VDD 4)DDD(R)
- 3.ペースメーカー不全
- VII.日常管理
- 8.[特殊な病態]拡張型心筋症(透析心とはなにか) / 網谷英介先生・杉本徳一郎先生・原 和弘先生
- I.概説〈尿毒性心筋症とは?〉
- II.拡張型心筋症の臨床像
- III.拡張型心筋症の診断と検査法
- 1.心電図
- 2.胸部X線
- 3.心臓超音波
- 4.心臓カテーテル検査
- 5.心内膜心筋生検
- 6.心筋シンチグラム
- 7.ホルター心電図
- 8.BNP
- IV.統計
- V.拡張型心筋症の予後評価
- VI.透析患者における拡張型心筋症の治療
- 1.利尿薬
- 2.ACE阻害薬,アンギオテンシンII受容体拮抗薬
- 3.β遮断薬
- 4.両心室ペーシング療法
- 5.アミオダロン
- 6.植え込み型除細動器―ICD
- 7.抗凝固療法
- 8.強心薬
- 9.Batista術・僧帽弁形成術
- 9.[特殊な病態]心アミロイドーシス / 興野寛幸先生・原 和弘先生
- I.概説
- II.心アミロイドーシスの症状
- III.心アミロイドーシスの診断
- IV.アミロイド蛋白の種類
- V.管理上の注意点
- VI.心アミロイドーシスの予後
- 10.[特殊な病態]心外膜炎 / 三瀬 直文・杉本徳一郎
- I.概説
- II.心外膜炎の特徴的な画像・検査所見
- 1.胸部X線写真
- 2.心電図
- 3.心臓超音波検査
- 4.血液検査所見
- III.心外膜炎の検査・診断手順
- IV.心外膜炎の治療
- 1.内科的治療,透析療法
- 2.外科的治療
- 1)心外膜腔穿刺によるドレナージ 2)心外膜切開 3)心外膜剥離術
- 11.[特殊な病態]カテコールアミン心筋症・たこつぼ型心筋症 / 田辺健吾・中澤 学・原 和弘
- I.概念
- II.たこつぼ心筋障害の診断
- III.たこつぼ心筋障害の成因
- IV.治療と予後